80点
ベルギー産の終末ムービー。基本の形は散々やり尽くされた、たくさん見たことがある形だ。
展開やラストはありがちなものの、設定の斬新さをテンポが良く面白い。期待していたものは一通り詰まっている!
『イントゥ・ザ・ナイト シーズン1』(2020)
出演:ポーリーヌ・エチエンヌ、ロラン・カペリュート、マフメット・クルトゥルス
原作・制作:ジェイソン・ジョージ
あらすじ
ハイジャックされた深夜便の乗客乗員たちは、謎の宇宙事象により地上で大惨事が起こっていることを知る。助かるためには、太陽を避け西へ飛行を続けるしかない…。Netflix
どんな話?
太陽の異常により、太陽光が人を焼き、日の出と共に滅亡していくという終末パニックムービー。
ブリュッセル空港で警備員から銃を奪い、搭乗中だった飛行機に乗り込んできた一人の男。機内にはまだ十人程度しか乗って居らず、男はハイジャックを成功させ、今すぐ飛び立てと要求する。
しぶしぶ飛び立った飛行機内で明らかになった男の主張は『太陽によって人が死ぬ』というもの。
乗客、乗務員共に半信半疑のまま向かった次の空港で燃える滑走路、逃げ惑う人々を見て機内の人間が男を信じ、共に太陽から逃げ続けることに。
終末に必ず生まれる閉鎖環境
終末ムービーらしく、少数の他人同士が閉鎖的な環境に閉じ込められ、寄せ集めのグループで協力しなければ死んでしまうという運命共同体の話である。
有名作『ミスト』を筆頭に、宇宙人侵略もの、ゾンビもの、超常現象もの…多くの終末映画で見たことがあるだろう。
そのテーマは脅威との戦いと、極限状態で現れる人間性だ。
世界の終焉という極限の状態で人は本性を表し、平和な日常では見ることのできないが顔出るだろうってのがこの手の映画では描かれることが多い。
この映画ももちろん終末に人はどう行動するか?というのが描かれていく。
一話ごとに一人にスポットを当て、過去の回想からその人となりを描いていく。最後まで職務を全うしようとするパイロット、壊れてしまった前世界に固執しそれまでの生き方をそのまま続けようとするもの、グループを統率しようと支配欲を顕にするもの、などなど…。
その”ヒト”の描き方が他の映画よりもリアリティがあって好きだな。
終末映画の閉鎖環境における人間の本性って、割とキャラクター化して描かれることが多い気がする。
例えば支配欲が強い人間は完全な悪として描かれ、その自分の欲求に葛藤もないし振り返ることもしない。自分ことが唯一の正義だと思っているテンプレの悪党として描かれることが多い。
それがこの映画では、登場人物に様々な属性を付与しつつも、人間ってそう単純で一面的なものじゃないよねってのが根底にあり、悪い奴をある瞬間にはいいところを見せたり、仲間のために自分を犠牲にしたりする。
その曖昧さと複合的な性質がリアルな人間味があってよかった。
明けない夜はない
なんといってもこの映画の勝ちポイントは設定だ。
世界に終末をもたらすものが太陽であるというのが楽しめた一番の理由だろう。
宇宙人侵略も、ゾンビも、面白いものはたくさんあれどさすがに飽和状態で、それ、他で見たな…が全くない映画というのはもう難しい。
それが太陽光という脅威に変わることで目新しいものとして見ることができた。
地球外生命体や、ソンビと違って太陽光は意図的に攻撃はしてこない。ただこれまと同じ規則的な周期で地球を照らし続け、それが人を焼いていく。そして地球外生命体やソンビと違ってこちらの対抗方法は逃げ続けることだけ。
その淡々とした悪意も害意もない脅威が逆に恐ろしい。
知恵を使って戦い、危機を乗り越えるなんてハラハラドキドキのアクションシーンは太陽相手にはなく、肉弾戦をする相手は人間だ。太陽は人間のことなど目もくれず、いつもと変わらず地球を照らしているだけである。
『明けない夜はない』なんて人を励ますのに使い古された言葉があるけれど、ひねくれものの私は同じ数だけ『夜が来ない朝もないよ』と思っていた。
この映画は『明けない夜はない』が恐怖の言葉になる。