『おとぎ話を忘れたくて』(2018)プリンセスストーリーという毒

Netflix
!ネタバレ有りの感想です!

60点

現代女性がぶつかる社会の価値観との壁、女性であるということを描いた作品。
主人公のヴァイオレットは黒人女性で、かつ、黒人女性であるということが、この物語の重要なのピースでもあるので、どこか少し遠い話に思えるかもしれない。
特に男性にはさっぱりわからない、共感できない話じゃないだろうか。

『おとぎ話を忘れたくて』(2018)


制作国:アメリカ
出演: サナ・レイサン、 リッキー・ウィトル、 リン・ウィットフィールド
監督: ハイファ・アル=マンスール
Netflix作品ページ

あらすじ

恋愛に、キャリアに、理想の未来。すべてを失った完璧主義者のキャリアウーマンがさがしはじめた、本当に大切なもの。私に似合う髪型は、きっと一つじゃない。Netflix

プリンセスストーリーという毒

主人公ヴァイオレットは、子供の頃から母に、常に女性としての完ぺきさを求められて育つ。
その象徴がストレートヘアだ。
『常に完ぺきなストレートヘアでいなくちゃいけない。黒人だからこそ』と口すっぱく言われ、プールに行っても自分ひとり、水の中へは入れない。ストレートヘアが取れてしまうから。

天パであることは黒人の象徴なのだろう。そして白人女性と対等であるとアピールするために、完ぺきなストレートヘアは必要不可欠だったのだろう(ヴァイオレットと母にとって)。
ストレートヘアへの執着、白人を意識した立ち振る舞いなど、裏にどれだけの差別か過去にあったか、今も残り続けているかが見て取れる。
人種問題については明るくないので、やたらと映画やドラマで取り上げられるほど、脚本の骨となるほど世界的に重要で関心が高いところなんだなあ、という感想に留めておいて。

母とヴァイオレットの目標は、そうして白人女性と対等に戦い、『ハイクラスの旦那様を捕まえて、家庭を築くこと』がゴールだった。
ヴァイオレットもそんな母の価値観を受け継ぎ、完ぺきなストレートヘアを滑稽なまでに死守して生きている。時には雨におびえ、時には道端の水撒きにおびえ…。

一見人種差別と、母娘の確執の話に見えるが、本質はそこじゃないと思う。

『ハイクラスの旦那を捕まえて家庭を築く』イコール「いわゆるプリンセスストーリー」じゃないだろうか。シンデレラ症候群とも言われるやつである。
昨今のディズニープリンセスは大きく変化してきているが、昔のプリンセスたちは『シュガーラッシュ2』の予告映像でもネタにされるほど、

女としての幸せイコール『ただそこに存在しているだけで王子様に見染められ、結婚して家庭を築き、めでたしめでたし』だったわけである。
このプリンセスストーリーに毒された女性は思っているよりも多い。
その価値観自体を悪という気はない。そこを目指す人が居てもいいだろう。問題は本当にその人自身がそれを望んでいるのか、ということだ。

この話はその価値観を母から植え付けられたものとして、母との確執として描かれているが、女子を通って生きた人なら、外部からそういう価値観を押し付けらた経験があるだろう。それはこの話のように母親かもしれないし、それ以外の誰かかもしれない。

英題のNappily Ever Afterとは

そんなヴァイオレットが「完ぺきすぎる」という理由で恋人に結婚を避けられ、振り切った方法で植え付けられた価値観から脱却し、本当の自分らしさを獲得する物語であry。
呪縛とも言える価値観を金髪にしてみたり、坊主にしてみたり、失敗を繰り返しながら変化していく姿は面白い。
ラストも「ハイクラスの男性でなく、自分らしくいられる男性と恋仲になる」とかいうオチじゃなくてホントに良かった。結局は男性と付き合うことが最上の幸福である、みたいな描き方をされたら全てが台無しになるところだった。

英題は「Nappily Ever After」というのだけれど、Nappilyってなに?聞きなれないな、と思って検索をしたところどうやら造語らしい。
元は「Happily Ever After」という、おとぎ話の締めに使われる、日本でいうところの「めでたしめでたし」「いつまでも幸せにくらしましたとさ」という意味の言葉のようだ。
頭文字がnなのは安直に否定形といったところだろうか。

完全なるアンチプリンセスストーリーということだろう。

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