60点
映画館まで観に行きたいほど興味があった今作だが、劇場公開時にはタイミングが合わずに配信待ちになってしまった。
まず、クリストファー・ノーランの弟であるジョナサン・ノーラン制作であり、〝記憶〟がテーマのSFという段階で間違いなく好きだと期待値が上がった。
そんな『レミニセンス』をようやく観れた感想は…、期待ほどでは無かったかな…。。。SF設定ではあるものの、SFとしての目新しさは薄く、装置や記憶ホログラム映像もどこか既視感を伴う。SFとしての良さは水没し掛けている都市の美しさくらい。これは本当に良かった。退廃的な美しさたっぷりで都市の映像をもっと見たいなぁと思ったくらい。
『レミニセンス』(2021)
出演:ヒュー・ジャックマン、レベッカ・ファーガソン、タンディウェ・ニュートン
Netflix作品ページ
あらすじ
人に過去の記憶を追体験させることができる男に舞い込んだ、謎めいた女性からの依頼。彼女に心を奪われた男は、途方もなく危険な陰謀へと巻き込まれてゆく。Netflix
肝心のストーリーは？運命の男女の話
期待ほどでは無かったものの、とてもいい映画だった。
ストーリーとしては、環境変動により水没したマイアミで、過去の好きなときの記憶を顧客に見せるという商売を営む主人公・ニック（ヒュー・ジャックマン）。客は様々な理由で自身の過去の記憶を体感しにやってくる。
幸福だった記憶に浸るためだったり、今はもう会えない人にもう一度会うためだったり…。
そんな客の一人、『鍵をどこに忘れたのか思い出したいの…』とやってきた女性・メイにニックは一目惚れしてしまう。ニックにとって彼女は『運命の女』であった。
メインは記憶でもSFでもなくここ。運命の男女の恋愛…というか、ファムファタールを追い求める男の浪漫の物語。
ニックとメイは短くも濃く、穏やかな時間を共にした末にメイはニックの前から忽然と姿を消してしまう。
メイのことを諦められないニックは、今まで客の記憶や色んな人を伝って彼女を探そうと躍起になる。
SF色をもっと強くするのならば、この捜索過程でそういう描写がもっと欲しかったな。SF要素としては水没都市の景色と、様々な記憶を見る辺りしかないのでSF感を期待しているとがっかりしてしまう。
ギャングや薬、富豪の相続問題など、メイを探す過程で人々の暗部を暴きながら痕跡を辿っていくのはノワール映画という方がしっくりくる。
今見ている映像が記憶の再現なのか、現在進行系でニックが体験していることなのか。メイがニック向けた愛は偽物だったのか、彼女は本当は悪い人間だったのか。など王道のハラハラドキドキ展開はあって飽きはしないものの、目新しさには乏しい。
ラストにニックが辿り着いた記憶の中で、メイはニックがここまで辿り着くことを信じ、他人の記憶を通してメッセージを残すという演出はとてもエモくて良かった。
ノーラン兄弟
何よりもこの映画について口を挟みたくなる部分は宣伝の仕方。おもしろそうだと思いつつも詐欺スレスレでは…？と思ってしまう手法にげんなりした。
まるでクリストファー・ノーランの最新作であるかのように誤認させる宣伝文句で、広告を見たときに「え？？さすがにTENETから早すぎない？？」と思い、よくよく調べてば弟であるジョナサン・ノーラン制作であるとわかった。
クリストファー・ノーランとジョナサン・ノーランの作品はSF要素の強い作品が多い、という括りでは通じるものがあるが、主軸に置いてあるものは全く別物である。
ウエストワールドもシーズン１を視聴済みだが、ジョナサン・ノーランの作品はクリストファー・ノーランの作品よりも哲学的な問いかけの色が強いかな、と思う。
ウエストワールドは〝生命とは〟、〝意識とは〟という問い掛けがなされていたし、今回のレミニセンスでは〝幸福とは〟という問いがあった。
今作では『美しい過去最高の記憶に留まることは幸福か？』という問いが強く見え、ニックはそれを自分にとっては至上の幸福であるとし、最後にメイと過ごした短くも濃い穏やかな時間の記憶へ留まることを選択した。同じ記憶を繰り返し見ることで、精神が蝕まれ、記憶から帰って来れないというリスクも承知でニックはそれを選択する。これは未来を捨てたとも同義である。
それでいて、同僚のワッツに対しては新しい職場を勧め、過去を振り払って前へと進むべきだと諭していた。
過去に執着することを〝亡霊〟と表現したり、大地主の妻が繰り返し旦那との記憶に浸っている様子が端から見るとおぞましく描かれていたりと、過去最高の記憶に留まることが至上の幸福ではないという描写も散りばめられている。
果たして可能性のある未来を捨てて過去最高に縋り付くのと、不確定な未来へ賭けること、どちらがより良いのか。幸福とは、というのを考えずにはいられない。
