70点
見終わった直後の感想は「ほーん……」だった。
細かいネタや展開はどこかで見たことあるな〜って感じの既視感アリアリだし、大きなどんでん返しはあるもののそれも「おお!」と驚くほどのものではなく、「そういう感じか〜、なるほどね」と玄人ぶりたくなる。
しかし、ラストの意味を考えれば考えるほど「じゃあアレは…」「あそこの部分は…」と次から次へと考察したい対象が出てきて噛めば噛むほど深みにハマってく。視聴後の思い返す時間が面白いタイプの映画だ。
『デッドリー・イリュージョン』(2021)
出演:クリスティン・デイヴィス、ダーモット・マローニー、グリア・グラマー
あらすじ
スランプに苦しむベストセラー作家のメアリーは、子供たちのために新しくベビーシッターを雇うことに。だがそれ以降、虚構と現実の境界線が曖昧になり始める。
Netflixより
『デッドリー・イリュージョン』はこんな話(ネタバレ有り)
Ever since the new nanny started, nothing seems to make sense — is she about to lose her family … or her mind?
Kristin Davis, Dermot Mulroney, Shanola Hampton, and Greer Grammer star in Deadly Illusions. Now on Netflix pic.twitter.com/w2FCUelIxj
— Netflix (@netflix) March 18, 2021
女性作家の元に新作小説の依頼が来て、『双子の子育てと執筆は両立できないわ!』という主人公・メアリー。精神科医である友人の薦めでベビーシッターを雇って執筆することに。
主人公のメアリーは憑依型執筆とでも言うのか、『執筆にのめり込むと現実と空想の区別が付かなくなるの』と怪しいことを終始言い続ける。ミステリーで言うならば信頼できない語り手だ。
雇われたベビーシッターのグレースは嘘くさいほどに〝いい子ちゃん〟で、一目でメアリーに気に入られ、家族の中に溶け込んでいく。そのうちメアリーと〝いい感じ〟になり、怪しい関係になっていく。その怪しい関係すらも主人公の妄想か現実か区別が付かず、どちらかわからないような演出で描かれる。すべて主人公の妄想なのでは…?というミスリードで物語は進んでいく。
主人公の夫、トムと出掛けたグレースはそれまでの清純派とは一転、別の顔を見せる。挑発的で扇情的な仕草、言葉遣い。終いには夫とイチャこくとこまで…。この娘…何かあるぞ…と疑惑は急激に膨れ上がる。
どっちがヤベー奴なのかわからなくなったところでグレースが実はシッター派遣サービスから来たベビーシッターではないことが明らかになり、物語は突然加速して転がっていく。
グレースのことを相談しようと主人公のメアリーが精神科の友人・エレインのオフィスを訪ねると、エレインは主人公が執筆中のストーリーに模した形で殺されていた…!!
警察に連れて行かれたメアリーは犯行が彼女の小説にそっくりなこと。前の晩に家を抜け出していること。口論を近所の住人に見られていたこと。防犯カメラの映像(スカーフを被り、サングラスを掛けてコートを纏った姿)などから犯人として疑われる。
ベビーシッターのグレースが怪しい!と思った主人公はグレースの家を突き止め、彼女の叔母を訪ねる。グレースのことを聞きたい、と言うと叔母は『またこれだよ』と発言してグレースの過去を教えてくれた。グレースが子供時代に虐待されてたこと、ジムで働いてると言っていたこと。
彼女の裏の顔が妄想ではなく、犯人はグレースだ!と確信した主人公が家へ帰ると夫が殺されかけている最中。グレースは虐待から二重人格になり、清純派のグレースと、凶暴な性格のマーガレット、二人の人格が彼女の中に居ることがわかる。
グレースとマーガレットの人格が入れ替わり立ち替わり現れるベビーシッターと大乱闘の末、何とか勝つ主人公メアリー。
エピローグは一年後に時間が飛び、夫は一命を取り留め、双子と家族四人で仲良く遊ぶ主人公が描かれる。
子供を預けた主人公が向かったのは、亡くなった友人エレインのお墓。そこへ『untitled(無題)』と書かれた小説原稿を供え、今度は精神病院へ…。そこにはグレースの姿があり…。
そして問題のラスト。精神病院から出て行くのはスカーフを頭に巻き、サングラスをかけた女の姿。エレインを殺した人物の格好だ。
最後の女はどっちなのか!
ラストシーンで歩いていくスカーフとサングラスの女、これが主人公のメアリーなのか、グレース(人格としてはマーガレット)なのか…果たして…どっちなんだ…というのを楽しむのがこの映画の本質だろう。
これによってこの物語の顔が大きく変わる。
主人公のメアリーであった場合、彼女もまた多重人格ないし、精神的な病を患っており、友人をも殺した犯人となる。また普通に入ってきた病院からあの格好で出て行く、と言うことはグレースを殺害したのだろう。
ラストシーンの女がグレースであった場合、メアリーは殺され、また同じようにグレース(マーガレット)の凶行が他の家族でも繰り返されるだろう。
メアリーがわざわざあんなわかりやすい格好で出て行くことは考えにくいが、二重人格であるとした場合、グレースも全く違う格好になっていたことから犯行の装いみたいな拘りがあってスカーフにサングラスという格好をしている…とも考えられる。
しかしメアリーにグレースを殺す理由があるのか…?というのも疑問も湧く。夫は切り付けられながらも無事だったし、殺したいほど憎い様子も乱闘中さえ無かった。ただメアリーが二重人格だったら、その性格は映画内で描かれていない為、どんな思考で犯行を行っているかはわからない。
『やりたかったことをやりにいく』という発言や、友人の墓に供えた小説など怪しい点もある。
この友人の墓に供えた『untitled(無題)』の小説についても疑問がたくさん出てくるのだ。これは彼女が執筆していた新作ではないように思われる。なぜなら彼女が執筆していたのは恐らく冒頭で登場する『DARK PLACES』の方だと思うからだ。
冒頭シーンの時間は事件後であり、作中で彼女が執筆していた小説が発売されたところだろう。暫く書いてなかったという彼女〝新刊〟として売られており、グレースが見た本棚の著書の中にも『DARK PLACES』は無かった。
とすれば…『untitled(無題)』は何をいつ記したものなのか…。
と考え出すとキリがない。そして答えも見つかりそうもない。正しい答えを見つけるには情報不足なのだ。
私はどちらかと言えば本当の犯人はメアリーである、という風に描かれている気がする。メアリーが執筆している小説についても『母親の暗部を…』『いい顔だと思っていた人が実はと言うのが…』と映画の展開を匂わせるような発言があったし、ストレートにグレースの中のマーガレット人格を精神病院で抑えられず、グレースがメアリーを殺して逃亡した、というより面白いからだ。